住まうことは建てることである。
自然に溶け込むかのように建っている民家を見れば、誰しもやすらぎをおぼえるだろう。それは、人間と住まいの関係が、それをつつむ全体性の相のなかに位置づけられていることを感じるからである。けれども、いくら古い民家をまもりつづけていても、もはや私たちはそうした全体性に到達できないことを知っている。民家のように物理的に永続する住まいのなかでは、生きられた経験は、そこで世代を超えて共有されていかねばならない。ところが、いまや周囲の自然をはるかに超えて、人間と住まいをつつむ世界は拡散している。だから、現代の生きられた住まいは、すべての個人が、めいめいの住まいを建てる不断の経験をとうして、成就してゆくより仕方のないものなのである。
封建制度の産物でもある伝統的な民家の集落景観は、生きられた個人の経験が、社会の経験とも一体であることを約束していた。では、私たち現代人は、いかにして社会との関係を内在させた住まいを持つことができるのだろう。現代住宅に立ちはだかる永遠の命題である。
-佐藤浩司「住まいに生きる」-